パンダの親指〈上〉―進化論再考 (ハヤカワ文庫NF)



パンダの親指〈上〉―進化論再考 (ハヤカワ文庫NF)
パンダの親指〈上〉―進化論再考 (ハヤカワ文庫NF)

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進化と科学史の融合

著者のグールド氏は、進化学の研究者として有名だが、同時に科学史も専門としており、本書では進化論に関わる歴史の裏側もあわせて語られているところが面白い。科学史に詳しい筆者だからこそと思われる、幅の広い考察が繰り広げられており、専門に進化学を勉強していてもなかなか知りえない内容だと思う。
特に興味深かったのは「ピルトダウン再訪」の章で語られる、化石資料の捏造事件。改めて調査すれば明らかな「作り物」であったという人骨(といってもオランウータンの下顎骨との組み合わせたもの)を、専門の研究者がこぞって受け入れ、人類進化の「ミッシングリンク」としてしまったのはなぜか? また、「ダウン博士の症候群」の章では、現在はダウン症として知られる病気の発見者であるダウン博士が、はじめ「蒙古白痴」なる病名で発表していたこと。そしてその背景には博士のゆがんだ人種差別が見え隠れしていることなど。
エッセーであり、話は多岐に渡るが、全ての話に進化論としての流れが見えるので、混乱することはない。文庫版であるが、下巻とあわせると、かなり読み応えのある本だと思う。
読み物として充実している

 何冊か読んだグールドの本の中では、内容がバラエティに富んでいて、突っ込みも程々なので読みやすい。それもそのはずで、本書はアメリカ自然科学史博物館の広報誌に掲載されたエッセイ集なのだそうだ。どれも書き出しから魅了され、本題への移行もスムーズで読み物として充実している。

 表題作も面白いが、本書での読みどころはあのドーキンスの説と対峙する「利他的な集団と利己的な遺伝子」、ミッキー・マウスのキャラクターの変遷やねつ造された人骨をテーマにした「人類の進化」、恐竜や有袋類の生態を弁護する「蔑まれ閉めだされた者たち」あたりだろう。特にドーキンスの説に異論を唱える数ページの記述は、感情を抑えた注意深い論理展開で、文章の書き方自体にも感心させられた。

 また個人的に驚かされたのは、1992年にベストセラーになった「ゾウの時間ネズミの時間」の元ネタが披瀝されている「体の大きさと時間」だった。「ゾウの・・・」を読んで感心したが、この指摘は同書をさかのぼること10数年前に一般向けに記述されていたのだ。同書を読んだことのある方は、ぜひ本書にも目を通して欲しい。



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